「お主にしては上出来な判断だ」
 居間でゴロゴロしていたリーフを捕まえてハートの小箱を手渡すと、自信満々な笑みと共に感謝の欠片もない台詞が返って来た。案の定というか、予想通りの反応に、イグネアは思わず渋い顔をする。もうちょっとこう、喜んでくれてもいいのではないかと正直ガッカリだ。
 しかし、イグネアのそんな不満もリーフはちっとも気に留めない。さっさと小箱を開封し、中身を確かめていた。
「おお、これは美味そうだな」
 小箱の中には、これまた可愛らしく飾られた“チョコレート”という菓子が行儀良く並んでおり、甘い物に目がないリーフはキラキラと瞳を輝かせていた。早速ひとつ口へ運び、満足げに笑みを浮かべている。
 イグネアはかなり怪訝そうに眺めていたが、隣に座るよう命じられたため、仕方なく渋々座った。
「何を拗ねているのだ?」
 どうやら不満が思い切り顔に出ていたらしい。リーフが不思議そうに問いかけてくるも、イグネアは素っ気なく視線を逸した。
「別に拗ねてなどいない」
 言ったと同時、ニュッと伸びて来た手に顎を掴まれ、されるがまま首を捻った。
「口を開けろ」
 条件反射的に開いた口に、チョコレートが差し入れられた。
 いきなりの事にかなり困惑しつつも、口に入れたものはどうにかしなければならないわけで。深緑の瞳がじっと見つめるという非常に居た堪れない状況下、イグネアはもぐもぐと口を動かして何とかチョコレートを呑み込んだ。 
「美味いか?」
 リーフは非常に上機嫌で、しかも珍しいことにやんわりと優しげに笑んだ。
 その笑顔にほんのりうろたえつつ、美味しいのは事実なので正直に頷くと、リーフはチョコレートをもうひとつ口元に運んで来た。これはまるで……親鳥から餌を与えられる小鳥状態ではないか! とイグネアは大いに困惑した。
「う……じ、自分で食えるぞ」
 と訴えてもリーフは引き下がる素振りを見せず、食べるまで離してくれそうにない。
 イグネアは仕方なく、もうひとつ口へ入れた。チョコレートの味なんかどうでもいい感じになって来たのは気のせいだろうか。
 ほんの少し間が空いたため、さすがにもう終わりだろうとイグネアは油断していたが。
「もうひとつ食わせてやる」
 などと満足げに言いつつ、リーフはチョコレートをひとつ自ら咥え、なんとそれをイグネアに食べさせようとしたのだ。
「な、なな、何を考えているのだ!」
 イグネアは大いに青ざめた。その状態で食べたら、どうなることか!
 しかし逃げようにも顎はしっかり掴まれており、身動きが取れない。その間もリーフは着実に近づいており、しかも「食え」と言わんばかりの威圧感を放っている。なんかもう、逃げられそうにないのだが。
 この後にイグネアがチョコレートを食したのか、何とかして逃げ切ったのか……真実は闇の中である。


 END



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