「ありがとう、君の気持ちは確かに受け取ったよ」
 自室でまったりしていたリヒトにハートの小箱を手渡すと、例のごとく爽やかで眩しすぎる笑顔が返って来た。表情はとても嬉しそうである。
「そんなに嬉しいものなのですか?」
 イグネアが率直に聞いてみると、リヒトは素直に頷いた。
 聞くところによると、“ばれんたいん”とは男にとって重大なイベントとも言えるそうだ。この日に本命の相手からプレゼントを貰えるかどうかが勝負で、また、義理でももらった数で個人の人気ぶりがうかがえるという。ちなみに余談だが、リヒトは王宮にいる時は半端ない数を頂戴するそうだ。
 それの何が楽しいのかイマイチよくわからないが、喜んでくれたのならばまあいいだろう、とイグネアも気分が良くなった。
「ところで、他に渡した人、いる?」
 一転して真剣な顔で問いかけられ、イグネアは首を傾げたものの、他には渡していないので首を横に振った。そもそもひとつしかないのだから渡しようもないが、リヒトにとってはそれすらも喜ばしいらしい。
「そっか、つまりは本気って事なんだね。だったら俺も誠心誠意、お返しさせてもらうよ」
「は?」
 意味がわからずに困惑するイグネアを、リヒトは予告もなくひょいと抱え上げた。

 それでどうなったかというと――

「ち、ちょっとなぜこうなるんですか!」
 いきなり抱えられたかと思ったら、あれよという間にベッドに横たえられ、イグネアは大いに迫られていた。身動きしようにもがっちりと両の腕を捕えられており、完全に逃げ道を失ってしまっていた。
「何故って……俺を選んでくれたんでしょう?」
 間近に迫る黄金の瞳が、胸やけしそうなほど甘ったるい眼差しを向けてきた。しかもその近さといったら半端ない。精一杯身を固くして抵抗しようとするも、結局はささやかなものでしかなく、その気になったリヒトは梃子でも動きそうにない。というか、なんだこの状態は!
「だからといって、なぜこういう展開に……って、どど、どこ触ってるんですか!」
 (彼女的に)有り得ない場所に触られ、全身が粟立ち、イグネアは壮絶に青ざめた。奇妙な悲鳴を上げつつひたすらにおろおろしている間にも、リヒトの艶美な笑みが着実に近づいて来る。
 触れるか触れないかの際で唇が動き、熱い吐息が耳朶を掠めて……終いには止めの一撃。

「愛してるよ」

 脳髄まで溶かしてしまいそうなほど極甘な囁きに、イグネアが泡を噴いて気絶したか、ついに陥落したのかは謎である。


 END



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