〜 ミニリク小説 「剣」 〜




 旅の途中立ち寄った町は、祭りというわけではないのに街道には露店がいくつも並び、とても賑やかで人々も活気付いていた。そんな中、エコーとバーミリオンは肩を並べて街道を歩いている真っ最中であった。
「兄さんたち、ちょっとちょっと」
 声をかけられて同時に視線を向けると、武器の露店を開いていた幾分怪しげなヒゲオヤジが、満面の笑みで手招きしているではないか。
 バーミリオンは全く興味がなさそうだったが、呼ばれるとついつい反応してしまうエコーは案の定手招きに誘われ、興味津々で行ってしまった。ということで、仕方なくバーミリオンも付き合うことになった。
「兄さんのその腰の得物、ちょいと見せてくんねえかなあ」
 オヤジが指し示したのはバーミリオンの腰である。どうやら彼の水晶の剣に、柄の部分を見ただけで大変興味を引かれたらしい。
「断る」
 バーミリオンは間髪を容れずに素っ気無く返すが、オヤジはそれでも諦めず、一目でいいからとせがんできた。
「いいじゃん、見せるくらい。ケチケチしてると、本当にけちな人間になるぞ」
 エコーにここまで言われてそれでも頑なに拒むことは、バーミリオンのささやかなプライドが許さなかった(後に彼は大人気なかった、と後悔するが)。


「おおおおお……! こ、こいつはすげえ代モンだな!」
 オヤジは水晶の剣を手に取り、陶酔・心酔した表情で歓喜の声を上げた。
 このオヤジは見てくれこそ怪しいものの、武器商人としての目利きは確かなようで、散々(どうでもいい)うんちくを語って二人に聞かせてくれた。とりあえずこんな剣はこれまで見たこともないと、深い感動に浸っていた。
「う、売ってくれ!」
 オヤジは瞳をキラキラと輝かせて「ぜひ!」と詰め寄ってきた。
 そのあまりの迫力に圧倒されて後退りながらも、バーミリオンは首を横に振った。
「す、すまないが、これは大切な物で売れないのだ」
 と言って剣を収めてしまった。何だか取られそうで怖かったようす。そしてさっさと身をひるがえして行ってしまったバーミリオンの後姿(というより去ってゆく剣)を、オヤジはいつまでも未練がましく見つめていた。
「あのさ、参考までに聞きたいんだけど、あの剣って売ったらいくらくらいになんの?」
 残されたエコーがこっそりオヤジに尋ねると、とんでもない答えが返って来た。エコーが何十年働いても稼げぬような金額だったらしい。町のひとつくらい、軽く買えるんじゃないかと思ったほどだった。

「何をしている。行くぞ!」
 前方から怒声を張り上げられ、エコーは慌ててバーミリオンを追った。しかしその内心に「いつかあの剣くれないかなー」などというささやかな野心が生まれたという事実を、バーミリオンは全く知らずにこの先生きてゆくこととなったのだった。



 END



<ひとこと>
バーミリオンの剣は、本来はお金に換算できないほど高価なものです。それでもあえて値段をつけたオヤジは、実は世界中をまたにかけるお宝ハンターだったりして(笑)。
エコー達は、町に滞在している間、ずっと妙な視線を感じていたらしい。


この話の登場人物は、こちらの作品の住人です。→ 「 Ag 」


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