〜 ミニリク小説 「ラヴラヴ」 〜




 それは立ち寄った宿屋での夕暮れ時の出来事。
「エコー、ちょっと……いい?」
 物陰から顔をのぞかせたフェズが声をかけてきて、廊下を歩いていたエコーは足を止めた。
「なんだよ?」
「うん……ちょっと」
「ちょっとって、なんだよ」
 普段ならば何の遠慮もなく話しかけてくる彼女が、今日はそわそわと落ち着かない様子。しかも何だか恥ずかしそうにしている。
 不思議に思ったエコーは何事だろうと考えをめぐらせていたが、しばらくして何を思いついたのか満面の笑みを浮かべた。
「あっ、わかった!」
「なっ、何が?」
 途端にフェズは頬を染めて後退りした。
「腹が減ったんだろ! そろそろメシの時間だしな!」
 何とも無神経な発言にフェズは別の意味で真っ赤になって怒り出した。だいたい十七年も幼馴染をやっているのだから、そんな理由で声をかけるタイプではないことくらいわかって欲しいものである。
「ち、違うわよ! 私がそんなこと言うわけないでしょう!」
「な、なんだよ、違うのかよ。だったら何だよ」
 あんまりにもフェズがムキになって怒るため、エコーは怯んでいた。何だか今日のフェズは変だとか思いつつ。
「うっ……あ、あのその……こっこれ!」
 しどろもどろになりながらフェズが差し出したのは、赤いリボンが結ばれた小さな包みだった。
「き、今日はバレンタインだから……」
 小声になって俯いてしまったフェズを見て、やっと意味を理解し、エコーは真っ赤になった。
「な、なんだよ、だったら早く言えよ……。わ、悪かったな変なこと言って」
 照れ隠しで勢い良く手を伸ばすと、勢いあまってフェズの手まで掴んでしまった。しかし勢いづいていたために手を離すに離せず、どうしていいかわからずに二人はしばし硬直していた。


 そんな二人の様子を、すぐそこの窓から一部始終しっかり見ていたルアンは、結局お似合いの二人だなあと呑気に思っていた。
 ――いやあ、若いっていいね〜。



 END



<ひとこと>
ちょうどバレンタインが近かったため、ネタにしてみました。
しかしこの二人のこ−いう場面は、なぜか書きづらかったりします(汗)。


この話の登場人物は、こちらの作品の住人です。→ 「 Ag 」


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