〜 ミニリク小説 「特別コラボ」 〜
※このお話は「深夜の恐怖」「黒光りするアイツ」「何故か逆ギレ」の三つのリクをひとつの話にしたものです。私の妄想がどうしても繋がってしまい、結果こうなりました。
翠霞様、皐月様、由比様、どうかご容赦ください……。





 夜もふけ、みな寝静まった時候。
 さて眠るかとベッドに横たわり、睡眠体勢に入っていたヒュドールは、しばらくして室内の異変に気付き、カッと瞳を見開いた。
 ――奇妙な音がする。
 青碧の瞳が注意深く室内を見回すが、照明が落とされた室内は真っ暗で何も見えない。ちなみに彼は真っ暗でないと眠れないタイプで、当然カーテンもきっちり閉められている。そんな中で奇妙な音の原因を突き止めるのは困難であるかのように思われた。
 が……
 カサカサ、カサカサ、と暗闇の中で何かがうごめいている。瞳には見えないものの、確かに不気味な気配が室内を走り回っている。
 この不愉快な音、そして気配。これはもしや、ものすごく嫌なアノ物体では……? 考える込んだ数秒の間、耳元を“それ”が横切った。羽音を耳に止めたヒュドールは恐怖心に苛まれ、暗闇の中で青ざめた。


 ガタン!
 いきなり派手な物音が聞こえ、イグネアは飛び起きた。敵襲か? というほど壮絶な表情で周囲を見回すと、辺りは真っ暗。どうやらまだ真夜中らしい。
「な、な、何事っ?!」
 心臓が破裂しそうなほどバクバクと鳴り響いている。爆睡していた所に突然の物音で思考はパニックに陥っていたが、しばらくしてもう一度同じような音が聞こえて来ると、それがどうも隣室からであると気付いた。
 隣室といえば、あの怒れる白銀の魔術師様がいるはず。まさかと思うが、泥棒でも入ったのではなかろうか。まあたとえ真夜中に盗人に遭遇しようとも、彼ならば冷静に対処して見事撃退するに違いないが、何となく気になり、イグネアは起き上がって隣室を目指した。


 扉の前に立ったイグネアは、耳を押し当てて中の様子を探ってみた。先程のように派手な物音の他に軽い音も何度か聞こえる。一体何があったのだろうか。
「こんばんは〜、どうかしました?」
 真夜中ということもあり、気を使って(絶対に中まで聞こえないだろう)小声で呼びかけて小さくノックしてみるが、当然ながら返事は無い。まさか、盗人と格闘の末にやられてしまったのでは……! ほんのり不安になり、イグネアは意を決して扉を開いてみた。

 室内は真っ暗だった。当然ヒュドールの姿も見えない。こんな真っ暗な中で何をしているのだろうか。
 このままでは歩くのも不便だな、とイグネアは何の気なしに手近にあった設置型の【魔光燈】に灯りを点した。パッと室内に明るさが広がる。
 と、同時。「あっ!」とものすごく不満げな声が奥から聞こえて来た。
「な、何事ですかっ?」
 大慌てで駆け込んでいくと、包丁片手に迫り来るヒュドールの姿を見つけ、思わず怯んだ。というか、なんでそんなもの持っているんだ。しかもこんな夜中に。
「貴様は何故この俺の邪魔をするんだ!」
 青碧の瞳に凍てつくような怒りを浮かべ、ヒュドールがぎろりと睨みつけてくる。
「邪魔っていうか、ものすごい物音がしたので、盗人でも入ったのかと思い、こうして来てみた次第でありますが」
 上官に事後報告するような口調でイグネアが答えると、ヒュドールは遠慮もなく渋い表情を浮かべて深い溜め息を吐いた。
「あと少し、という所まで追い詰めたのに……!」
 チッと麗しい顔に似つかわしくない舌打ちを交え、ヒュドールは不満を洩らしていた。どうやら明かりをつけた事が問題らしい。全く、何のことやら。それよりも、怖いから包丁何処かにしまって下さいと言いたい。
「そんなもの振り回して物騒じゃないですか。何してたんですか? 真夜中の料理大会?」
「そんなわけないだろう。何で睡眠時間を削ってまで、そんな下らないものを独りで開催しなきゃならないんだ。俺は今すぐ眠りたい」
「じゃあ何してたんですか?」
「……奴だ。奴がこの部屋に出現したんだ」
「やつ?」
 ぶつぶつと独り言のように呟くヒュドールの表情は忌々しげだ。
 何だろうとイグネアが首を傾げた時。向かい合って話していた二人の間を、黒い物体が飛び去って行った。それも高速で。
 一瞬にしてヒュドールの顔色が変わった。ぞわり、とおぞましさが背中を震わせる。
「出やがった!」
 顔に似つかわしくない言葉遣いで吐き捨て、ヒュドールは包丁片手に“やつ”を血眼になって探し始めた。しかし“やつ”は暗い場所を好む生物、光の当たる箇所を探しても見つからない。闇から闇へと渡り歩く、まさに暗闇の王者なのだ。
「もしかして、やつって……アレですか」
「ああ、そうだ。だから暗い中、必死で闘ってたというのに、アンタが明かりを付けたせいで逃げられたんだ!」
 今なおあちこち探しまくっているヒュドールの姿を見遣り、イグネアは溜め息を吐いた。どうでもいいが、包丁なんかでどうするつもりだったんだろうか。刺したら刺したで、その包丁は二度と使えないはず。どうせなら、水の魔術でやっつければいいのではなかろうか。
 そうしていると、真っ白な壁にぽつんと黒いものを発見した。つるりとした光沢、何者にも屈しないだろう黒い硬質、ひゅんと伸びる二本の細い触覚は迷子の子猫ちゃんのように居場所を探して忙しなく彷徨う。太古より生存する無敵の生命力を誇る“やつ”が、暗がりから暗がりへ移動をしていたのだ。

来たれ、炎の蝶よ(ライ・フラム・ファルファラ)!」

 真紅の瞳をわずかに光らせ、イグネアが最小限の魔力を発して炎の魔術を発動した。高速移動をしていた“やつ”は、突如現れた炎の蝶に一瞬で身体を焼かれ、先程までの小賢しい動きは何処へやら、力尽きてぽとりと床の上に落ちた。そこへつかつかと歩み寄り――なんと、イグネアは素手で“やつ”を摘み上げたのだ。
「はい、撃退しましたよ」
 のほほんとした笑顔で振り向き、目の前に“やつ”を掲げて見せると、ヒュドールは青ざめて身を引いた。
「そんなもの俺に見せるな! 早くどこかへやれ!」
 まるで珍獣を見るような目つきで見られ、イグネアは首を傾げた。素手で触っている事が信じられないようだ。
「あれ、もしかして苦手なんですか?」
「うるさい! 氷漬けにして捨てられたくなかったらさっさとしろ!」
 撃退してやったのに何でそんなに怒られなきゃならないんだろうか。しかもこんな真夜中に迷惑な騒音を立てていたのは誰なのか。怒りたいのはこっちである。
 けれど、あの怒り魔人ヒュドールの苦手なものを見つけた気がして、イグネアは内心でちょっと喜んでいたりする。
 神経質な彼ならではの弱点だな、などとこっそり笑っていたら背後からぎろりと睨まれ、イグネアはさっさと退室して行った。その背中に「すぐさま手を消毒しろ!」と怒声が浴びせられたのだが、聞こえていたのか不明である(でもちゃんと手は洗いました)。


 END



<ひとこと>
私の都合で三つのリクを合体させてしまって申し訳ありませんでした(平謝り)。
ナイスリクのおかげで、私自身も楽しんで書けました!
実は、過去の水那月vs“やつ”の経験が反映されているとか、いないとか……。


この話の登場人物は、こちらの作品の住人です。→ 「 FIRE×BRAND 」


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