〜 ミニリク小説 「恋愛観を語る」 〜




 穏やかでさわやかな風にふらりと流され、イグネアは珍しく部屋を抜け出し、庭園の散歩をしていた。園内をぐるりと歩いてベンチに座り、目の前に広がる花をながめてまったりしていた。
 しばらくすると、花壇の向こう側に人影が二つほど見えた。わずかにずれ落ちた眼鏡を正しつつ良く見てみると、高貴な雰囲気を漂わせる貴族の姫と、相手は自称“スペリオル一の美形騎士”リヒトである。会話は全く聞こえないが、リヒトはやんわりと微笑んで姫君の手に口付けしていた。まあ、よくある騎士と姫のワンシーンだ。
 さすがは王宮の騎士様、なるほど様になっているなあ、などと呑気に考えていると、いつの間にやら前方の人影はどこかへ消え、代わりに背後から声をかけられた。
「こんな所からのぞき見?」
 びっくりして振り返ると、リヒトがからかうように笑っていた。
「のぞき見とは失礼ですね。そちらが勝手にやって来たのではないですか」
「そうなの?」
 と、リヒトは断りもなくイグネアの隣に座り、長い足を組んだ。どうでもいいが、彼は仕事中ではないのだろうか。
「先程の方は放って置いていいんですか?」
「んー? ああ、もうお見送りは終わったからいいの」
 どうやら先程の姫君は、王宮への客人だったらしい。もう帰るというので、向こうのご要望に応じ、リヒトがお見送りをしたというわけだ。一応これでも仕事をしていたらしい。騎士とは大変な仕事だな、などとイグネアはまたしても呑気に考えていた。
「あれも仕事のうちなんですか?」
 イグネアが手を上げて甲を指差すと、リヒトは「ああ」と言って手を叩いた。
「挨拶みたいなもんだよ。貴族の姫はああいうのを望んでいるからね。君もして欲しい?」
「いえいえいえ、結構です。お仕事たいへんなんですね」
 真顔で迫られ、イグネアは渋い顔を激しく横に振りつつ退いた。
 そんな彼女の様子に、リヒトは笑っていたが。
「でも、仕事でもなければ人前ではあんなことしないよ。人に見せびらかすもんじゃないし、二人の時は邪魔されたくないしね。逢瀬は人目を忍んでこそ楽しいものなんだよ」
「はあ……そうなんですか」
 平然と公然とやっていそうな気がしたが、それほど露出が好きではないらしい。意外ですねと言葉を返すと、何が楽しいのか(嬉しいのか)知らないが、その後もリヒトは独自の意見を延々述べていた。しかし、どのみち自分には関係ないので内心ではどうでもいいと思っていたイグネアであった……。



 END



<ひとこと>
リヒトは、意外と二人きりの時間を大切にするタイプです。

この話の登場人物は、こちらの作品の住人です。→ 「 FIRE×BRAND 」


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