ビオレータと春の魔法使い
〜赤い果実と春の風〜
エスタシオンの端、穏やかな森には一軒家が建っている。こぢんまりとしたメルヘンチックな外観は、いかにも住人の趣味丸だしであるが、そこはカトル・セゾンの春の魔法使い、イリスの城である。普段彼女は一人で暮らし、趣味のガーデニングに勤しんだりして日々まったりと暮らしているのだが、昨日から懐かしの二人暮らしに戻っているのだ。ちょっと変則的だが。 「へっくしょん!」 寝室に派手なクシャミが響く。こんもりと盛り上がった可愛いベッドで、ううっと苦しげに唸ってふとんに包まっているのは、なんとミュゲである。 ミュゲは日帰り予定でエスタシオンに来ていたのだが、帰る頃に体調を崩し、ブルーメに戻るに戻れず、仕方なく師匠であるイリスを頼って屋敷までやって来た。ただの風邪のようだが、こうして寝込む事すでに二日。連絡もしてないから、そろそろ帰らないと……何より家の散らかり具合が心配だ。放っておくと、ビオレータとペルは好き放題で家中を散らかすのだ。ビオレータ自身はたかが二日不在な程度でどうという心配にもならないが、それだけが気掛かりで仕方ない。 重たい身体を起こそうとするが、頭はクラクラするし視界はぼやける。それでも無理して立ち上がろうとしていると、ぴゅーっとイリスが吹っ飛んで来て、思い切りふとんの中に押し戻されてしまった。 「そんなフラフラで何処へ行こうというの? まだ寝てなきゃ駄目よっ」 ぷうっと頬を膨らませ、まるで子供をたしなめるような口調でちょっと怒っている師匠を見て、「あなた一体いくつですか……」とミュゲは掠れる声で呟いたが、本人には当然ながら聞こえていない。 「……帰らないと」 「駄目よっ。そんな状態で可愛いビオレータに風邪が移ったらどうするの?」 そこが問題なのか、とミュゲは疲れた表情を浮かべたが、当然イリスは微塵も気付いちゃいない。 「そう言いますけどね、もう二日も経ってるんですよ。たったの二日で、家中がどれだけ散らかるか……イリス様はわかってないんです」 「まあ、ビオレータったら、相変わらずお片付けが苦手なのね」 くすっと愛らしい笑いを浮かべる師匠を、ミュゲは溜め息交じりで見遣った。 「そうやってイリス様が甘やかしていたから、今現在この僕が多大なる苦労を強いられて……」 「私が、代わりに行って来るわ」 ミュゲはぼんやりとした薄青の瞳を瞬かせた。 「は?」 「だからね、私がビオレータの様子を見に行って来るから、ミュゲくんはしっかりお風邪を治してちょうだいな」 ぼんやりとしていた薄青の瞳は途端にはっきりとし、ミュゲは勢いよく飛び起きた。 「ちょ、ちょっと待ってください! 何を言ってるんですか!」 「大丈夫よー。ほら、ネージュだって時々お弟子さんの所に行ってるし」 「そういう意味でなくて!」 あの人はあれでもちゃんとしている人だから、人間界へ行っても失敗などしないが、うちの師匠は違う。絶対、何かしらやらかしてくるに違いないのだ。だから、それをあらかじめ阻止するため、ミュゲがビオレータについて人間界に行っているというのに。 引き止めようとしてミュゲは手を伸ばしたが、途端にゲホゲホと咳き込んでしまった。 「あっ、ほら寝てなきゃ駄目っ。あとの事は私に任せて。うふふ、ビオレータに会うのは久しぶりだから、なんか緊張しちゃうわ。お土産はやっぱりお庭で採れたフレーズね」 ああ、もう駄目だ。ああなったら止められない。 スキップでキッチンへと向かってゆくイリスの後姿を見送りつつ、ミュゲは力失せてベッドに崩れ落ちた。もう、どうにでもなれと思いつつ。 所変わって、爽やかな晴れ空が広がるブルーメ。 本日のビオレータは、青果店のおばさんを手伝って大好きなフレーズの収穫に勤しんでいた。普段は旦那さんと一緒に収穫をするのだが、どうやら体調を崩して寝込んでいるらしく、困っていたおばさんを手伝う事になったのだ。いつもお世話になってるから、という純粋な動機はもちろんのこと、もしかしたらお礼とか言ってちょっともらえるかも! などという不純な動機を抱いていたのも事実だったりする。 そんなわけで、おばさんの畑にてせっせとフレーズ収穫に励んでいる。その傍らにはペルがいて、大人しく座って見守っている。 こうしてフレーズの畑に埋もれていると、お師匠さまの事を思い出す。お師匠さまの家の庭にも小さな畑があって、とても美味しいフレーズがなる。ビオレータは、お師匠さまのフレーズが大好きだった。 「そういえば、いつも連れている白い猫ちゃんはどうしたの?」 「それが、ここ二日くらい行方不明なんですよー。もうどこに行っちゃったんだろ? お部屋の掃除してくれないと、どんどん散らかっちゃって……」 「まあ、猫ちゃんがお掃除してくれるの?」 おばさんの言葉にビオレータはぎくりとした。まずい、ついつい愚痴ってしまったが、うっかりミュゲの事を話してしまうところだった。ここは無理やりに話を変えなければ。 「あー、おばさん。これ、採っても大丈夫?」 「ええ、大丈夫よ」 「わーい、美味しそうだねーペル!」 わざとらしく声を張りつつ、ビオレータはわたわたと小さなフレーズの実を手に取り、優しくもいでかごに乗せた。いかにも挙動不審だが、収穫に夢中なおばさんは全く気付いていない。 それにしても、ミュゲは本当にどこへ行ったのだろうか。しっかり者の彼は、たとえば数日不在になる場合があるとしても、きちんと帰宅日まで告げていく。それが今回は一切の連絡がなかったのだ。まあ、ミュゲの事だから何か理由があるのだろうし、事件に巻き込まれたとか、そんなスリルとサスペンスの狭間に置かれているとも思えないのだが…… ――早く帰ってきてくれないと、お部屋がどんどん散らかっちゃう! 結局、こちらもそれが重要な問題だったりするらしい。 期待通り、お手伝いのお礼としておばさんは採れたてのフレーズをくれ、ビオレータは満面の笑みで帰宅した。足取り軽い彼女につられてか、ペルも楽しそうについて来る。ミュゲのいない間に一人で食べてしまおう! などという不義理な考えまで浮かぶ始末だ。 丘の上の家に戻って来ると、ビオレータは青紫の瞳を瞬かせた。なぜか、レンガの煙突が煙を吐き出しているのだ。 「あれえ? ミュゲくん、帰って来たのかな?」 小首を傾げつつ扉を開けてみると、真っ先に瞳に飛び込んできたのは、テーブルの上に置かれた白い箱。その中にはみずみずしい輝きを放つ、たくさんの赤い果実が並んでいた。 「きゃー、フレーズがいっぱい!」 なんでこんなに大量にフレーズがあるのだろうか? とほんの少しの疑問を抱いたが、まあこの際どうでもいい。瞳をきらきらさせつつビオレータがテーブルに飛びついている間、ペルはくんくんと鼻を鳴らして一目散にキッチンへと走っていった。その直後に聞こえて来たのはミュゲの声ではなく、聞き覚えある女性の黄色い声だった。 「まあ、なんて可愛らしい子犬なのかしらっ!」 おや、とビオレータは首を傾げた。この懐かしい声は間違いなく…… そして、キッチンからペルを抱えて出て来た人を見て、ビオレータは嘘くさいほどに驚いた。いや、驚いたのは本当なのだが。 「お、お師匠さまっ?!」 「ビオレータっ。お久しぶりね、元気にしていた?」 ピンク色の長い髪に、可愛らしく改造された真っ白なローブ。優しい笑顔とほんのり甘い花の香を漂わせつつゆっくりと歩み寄ってくるのは、どこをどう見ても、正真正銘我が師・イリスであった。 ビオレータは大いに混乱していた。なぜミュゲではなくお師匠さまがここにいるのだろうか? も、もしやこの前【アペルティオ・フローリス】を失敗した話を、ミュゲくんから聞かされて、それで怒って来たのだろうか。というか、あのお師匠さまが怒るとは思えないが……などと色々考えながら、ビオレータはうーんと唸っていたが…… 「ミュゲくんがね、風邪で寝込んでしまったの。あなたの事を心配していたから、良くなるまで私が代わりに様子を見ることになったのよ」 「え、ミュゲくんエスタシオンにいるんですか?」 「ええ、私のおうちで療養中よ」 「そうなんだ。帰って来ないから、どうしたのかと思ってました。おかげでお部屋がこんなに……」 と、ついつい話のノリで部屋の散らかりっぷりを披露したビオレータに、イリスは穏やかな笑みを向けた。 「うふふ、ビオレータは相変わらずお片付けが苦手なのね。ミュゲくんに任せきりなんでしょう?」 「あわわわっ……」 ビオレータは慌てふためいた。 実は学校を卒業した直後は、修行場所が決まるまでイリスの家で暮らしていたのだが、その頃から片付けが苦手で、よくミュゲに叱られていたのだ。お師匠さまの家だし……という事で、その時は苦手ながらも何とかやっていたのだが、イリスの言う通り、人間界に来てからはほぼミュゲに任せきりだったりする。 さすがはお師匠さま、離れていてもお見通しだ……とビオレータは考えていたが、物が散在した部屋の状況を見れば誰でも理解するだろう。 「はい、では修行を始めまーす」 「え?!」 驚いて顔を上げると、イリスは抱えたペルを撫でながらにっこりと微笑んでいた。 「今から、このたくさんのフレーズを使って美味しいケーキを焼こうと思います。ビオレータは食べたいかしら?」 途端、ビオレータは青紫の瞳を輝かせた。料理上手のイリスが作るフレーズケーキは絶品だ。当然の事ながら、人間界に来てから一度も口にしていないわけで。久しぶりに食べたいわけで。 「た、た、食べたいですっ!」 半分開いた口から危うく涎を垂らしそうになりつつも、ビオレータは青紫の瞳をきらきらと輝かせていた。傍から見ればかなり怪しい。 「では、ケーキを焼く間にお部屋の片付けをしてしまいましょう!」 「はーい!」 と勢い良く手を上げて返事をしたビオレータ。まるっきり乗せられているという事実には微塵も気付かず、大好きなフレーズケーキのため、普段の愚鈍振りからは想像もつかないほどの迅速さで部屋の片付けを終わらせたのだった。 きちんと片付いた部屋で、ビオレータとイリスはのほほんとお茶会を開いていた。甘酸っぱいフレーズケーキの香りと温かなお茶がなんとも美味である。そのうえ師匠の微笑みは春の日差しのごとく暖かで。久しぶりに食べるケーキはやはり絶品でどうにも止まらず、ビオレータは一人で二切れも食べていた。 「うふふ、ビオレータはいつも美味しそうに食べてくれるから嬉しいわ」 「だって、本当に美味しいんですよー。しかも今日のは格別です」 「ビオレータが持ってきたフレーズのおかげかしら。私のお家で獲れたものとは違った甘さがあるみたいね」 そのフレーズは、今日畑仕事のお手伝いをして貰ったものだとビオレータが話すと、イリスは何かを思いついてパチンと手を叩いた。 「じゃあ、その青果店の方にケーキをプレゼントしましょう!」 「あっ、それいいですね!」 それは名案だ。イリスのケーキは本当に美味しいから、おばさんもきっと喜んでくれるはず。 そうと決まったら作業は驚くべき速さで進んだ。カットしたケーキをどこから見つけて来たのか適当な箱に詰め、そしてこれまたどこから見つけて来たのか知らないが赤いリボンで飾った。それらは全てイリスがやったのだが、さすがは可愛いもの愛好家、流れるような素早い作業っぷりで仕上げてくれた。 ビオレータはというと、傍らで感嘆の声を上げつつ、箱やリボンが我が家に存在した事に驚いていた。本当にお師匠さまはどこから探して来たのだろうか、という疑問は否めない。 「はい、できあがり。さっそく届けに行きましょう」 にっこり微笑む師匠につられてビオレータものほほんと笑い、二人は仲良く手をつないで玄関の扉を開けた――その時だった。 真っ白な猫がいきなり飛び込んできて、イリスに飛びついたのだ。 白猫の驚異的パワーで屋内に押し戻されたイリス。手をつないでいたビオレータも、当然一緒に巻き添えを食らった。 「何かやらかすだろうと思って様子を見に来てみれば……。そのままの姿で外に出るつもりですか、イリス様!」 イリスに抱え上げられた白猫は、(猫なりに)怒った表情を浮かべていた。薄青の瞳は据わり切った眼差しで睨んでいる。相手が師匠だという事ももはや関係ないらしい。 「まあミュゲくん。お風邪は治ったの?」 「ゲホゲホ、治るわけないでしょう。やはり心配だったから戻ってきたのです」 「まあ、ミュゲくんったらビオレータの事が心配で仕方なかったのね。本当に我が弟子ながら優しくて出来た子だわ」 「……あなたのことを言っているんですよ!」 全くこれではどちらが師匠なんだかわからない。これ以上話しているとまた熱が上がりそうだ……そんな風に考えながら、ミュゲはがっくりと項垂れた。だいたい、ヴァイスが人の姿で人間界をうろついてはいけないと、この人はカトルであるにも関わらず知らないのだろうか。ここで自分が止めに入らなかったら、一体どうなっていたか。 「これから青果店にケーキを届けに行くの。ミュゲくんも一緒に行く?」 「行くわけないでしょう。僕は風邪を引いているんですよ。寝てます」 「えーっ、せっかく皆一緒なんだから行こうよー!」 と、病猫相手だということもお構い無しにビオレータは呑気に言い放った。 ああ、この師にしてこの弟子あり。二人揃って相手をするのは疲れるな……とミュゲはげっそりした表情を浮かべ、二人して何かやらかさないようにと見張るため、病体に鞭を打って結局は着いていく事にしたのだった。 「こんにちは!」 「あら、いらっしゃい。さっきはお手伝いありがとうね」 青果店に行くと、おばさんはいつものように笑顔で迎えてくれた。立ち上がって店先までやって来ると、ビオレータの足元に白猫を見つけて驚いていた。 「あら、猫ちゃん帰って来たのね。しかも……こっちは女の子かしら?」 イリス(猫型)のしなやかな素振りを見て即座に女の子と判断したおばさんは、彼女がミュゲ(猫型)の恋人だと勘違いをし、一人で大いに盛り上がっていた。きっと恋人を探しに行っていたのよ、とか白猫たちのロマンスを想像しながら。 おばさんの勘違いにイリスは心中で笑いを堪え、ミュゲは大層不機嫌な表情を浮かべていたが。 「とにかく帰ってきて良かったわね。ビオレータはいつも動物に囲まれていて、楽しそうよ」 「あ、あははは……」 猫二匹と犬一匹、これだけ引き連れていれば、動物好き以外に見られるはずがない。 「そうそう。おばさん、さっきもらったフレーズでケーキを焼いたんです。良かったら食べてください!」 「まあ、ありがとう。とても嬉しいわ。ビオレータが焼いたの?」 「いえいえいえ、まさか! 今ウチにお師匠さまが来ていて、それで……」 そこまで言ったところでミュゲに足を突かれ、ビオレータは我に返って口を抑えた。危うく喋ってしまう所だった。 その後もしばらくおばさんとの会話を楽しんでいたビオレータだったが、その様子をイリスが(猫なりに)微笑ましく見守っていた事には全く気付いていなかった。 おばさんにケーキを届けた後、ブルーメをぶらりと散歩して帰宅した頃には、すっかり星空が広がっていた。久しぶりにイリスと再会して張り切り過ぎたビオレータは、ブルーメ内を案内する間も妙にハイテンションで、それで疲れたのか帰宅後いつの間にか眠ってしまっていた。 ベッドに横たわってすやすやと眠るビオレータの寝顔を、人型になったイリスは穏やかに微笑みながら見つめていた。 「元気な姿を見られて本当によかったわ。この国はビオレータにぴったりな修行場所ね」 町の人々にも好かれ、とても楽しく暮らしているのだと良くわかった。このブルーメの温かな春は、ビオレータにとって最適な修行の場だ。そのせいか、少し成長したように見受けられた。 イリスがにっこりと笑いかけた先には、同じく人型になったミュゲがいた。 「嫌になるほど、ですけどね。ところで、この部屋はイリス様が片付けたんですか?」 「いいえ、ビオレータが一人でお片付けしたのよ」 イリスの言葉に、ミュゲは少なからず驚いていた。イリスは冗談でも嘘を吐くような人ではない。そのうえ、人を立てるような事が出来るタイプではない。つまりイリスの言う事は真実である。 「……どんな魔法を使ったんですか?」 「うふふ、内緒よ」 あれだけ片付けが苦手なビオレータを動かすとは……のほほんとしていてもさすがは師匠。こういう時に、やっぱり敵わないのだと実感させられるのだ。 ミュゲが疲れた表情で溜め息を吐くと、イリスはくすりと笑いを零し、そして立ち上がった。 「ミュゲくんも帰って来たことだし、私も帰らなきゃ」 「エスタシオンに戻られるんですか? 朝まで待っていればいいじゃないですか」 瞳を覚ました時、すでに帰ってしまったのだと知ったら、ビオレータは悲しむだろう。たぶん、どうして起こしてくれなかったのかと文句を言うに違いない。 すると、イリスは少し淋しそうに微笑んだ。 「起きている時だと、別れるのがつらいもの」 そう言ってビオレータの髪を優しくなでると、イリスは再び白猫に姿を変えた。そして軽やかに出窓に駆け上がり、くるりと振り返った。 「ビオレータに伝えてちょうだい。今度会うのは昇級試験の時よって!」 春色の瞳を片方瞑って愛らしくウィンクをし、わずかに開いた窓の隙間をくぐってイリスは夜の中へと飛び込んで行った。 まるで突然吹いた春風のように。 懐かしい香だけを残して、春の魔法使いは帰って行ったのだった。 「えーっ! 何で起こしてくれなかったのーっ?!」 翌朝。 イリスが昨夜のうちに帰ってしまったのだと聞かされたビオレータは、ミュゲの予想通り思い切り不満そうであった。口を尖らせ、頬をふくらませ、たいそうご立腹である。ミュゲは自由にエスタシオンに出入り出来るからいいが、ビオレータはそうは行かないのだ。だから久しぶりに会ったイリスと、もっと一緒に居たかったのに。 しかし、ビオレータに詰め寄られてもミュゲは一向に動じず、しれっとしていた。さすがである。 「何でって……気持ち良さそうに寝てたから」 「せめてちゃんとお別れ言いたかったのに! もう、ミュゲくんってば気が利かないのねっ!」 散々な言われようだが、果たして起こしたところでビオレータが瞳を覚ましたかどうかは全くもって未知である。間違いなくあれは爆睡していたから。 「次に会う時は、昇級試験の時だってさ」 「昇級試験?」 「グラウへの昇級試験は、師匠の元で行われるんだよ。頑張れば、それだけ早く会えるでしょ」 「そうなんだ! じゃ、私頑張る!」 ビオレータは新たな意気込みを胸に、強く拳を握り締めた。 大好きな師匠との再会を目指して。 |
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