ミュゲと小さな魔法使い



〜出会いは希望に満ちて〜








 ビオレータとミュゲのお師匠様は、女性だ。
 彼女はヴァイスの中でも特別階級であり、春夏秋冬の魔法使いから一人ずつ選ばれる、【グラン・マージ】に次いで高位な【カトル・セゾン】と呼ばれる魔法使いである。
 カトル・セゾンの四人は、揃って個性派揃いというのは有名な話だが、二人のお師匠様である春の魔法使いは、とりわけ変わった人だ。
 他のカトルたちは、たくさんの門下生を取って、次世代の魔法使い育成に熱意を燃やしている。普通のヴァイスでさえ、そうやって弟子を育てているにも関わらず、彼女の弟子はビオレータとミュゲだけ。
 他のカトルたちは、その権威の象徴として大豪邸に住んでいるにも関わらず、彼女はエスタシオンの端っこの森に小さな屋敷を建て、ひっそりと住んでいたりする。
 ちなみに趣味はガーデニング。魔法を使わずに草花や野菜を育てたり、とにかくのんびりまったり暮らしている。
 ビオレータとミュゲ出会いは、今から数年前、ミュゲがまだグラウ・マージだった頃に、そんなお師匠様のきまぐれによって引き起こされたのだ。



◇    ◇    ◇



「ミュゲくん、今日はグラン・マージの所へ遊びに行きましょう」
 唐突に話を持ちかけられ、屋敷の掃除をしていた灰色ローブの少年――ミュゲは、せっせと動かしていたホウキをぴたりと止め、困惑の表情を浮かべながら振り返った。振り向いた先には、にっこり笑顔を向けてくる人物。ピンク色の長い髪の、おっとりした雰囲気の女性だ。
「イリス様、今日は徹底的に掃除をするという話ではなかったんですか?」
 眉間にしわを寄せると、イリスと呼ばれた女性は聞こえなかったのか、さらに笑って小首をかしげた。
 ミュゲはこれ以上の問答は無駄だ、という意味を込めて溜め息をついた。
 彼女のきまぐれは、昨日今日に始まった事ではない。魔法の修行のはずが、いつの間にか花壇いじりに変わっていたり、昔なじみのヴァイスの家に仕事で出かけたはずが、いつの間にかまったりお茶会に変わっていたり――そんな変更は日常茶飯事。しかも、彼女の弟子といえばミュゲだけなので、付き合わされるのもまた彼一人、というわけだ。とはいえ、笑って許せる範囲のきまぐれなので、苦労は全くないのだが。
 それより、いくらカトル階級とはいえアポなしで遊びに行けるほど、グラン・マージとは気軽な関係なのだろうか、とミュゲは疑問を抱いた。が、お師匠様がそこまで考えているはずはない、と思い直す。

「おみやげは、何にしようかしら」
 ミュゲの困惑など全く気にも留めず、イリスはその辺を見回して手土産になりそうなものを探し始めた。あちこちウロウロするたびに、柔らかなピンク色の髪と白いローブの裾がふわりと揺れ、ほんのりと花の香りが漂う。
「さっき採れたフレーズを箱詰めにしたらいいじゃないですか」
「あら、さすがはミュゲくん。ナイスアイデアね!」
 いつまで経っても決めかねている姿を見てミュゲが助言すると、イリスはさっそく適当な箱を見つけ出し、スキップでキッチンへと向かっていった。一度決断すると驚くべき行動力を発揮する人である。
 キッチンからは鼻歌が響き、それを耳に留めながらミュゲはやり残した室内の掃き掃除をさっさと終わらせた。中途半端にして行くのは気分が落ち着かないし、かと言って、残って掃除をするという選択肢は与えられないだろう。猫にでもされて結局連れて行かれるのがオチだ。それならば、自ら行く気を起こした方が疲れなくて済む。

 それから数十分後、採れたてフレーズがたくさん詰まったお土産が完成した。白い箱をデコレーションする赤いリボンは、クルクルと巻かれていてとても豪華。イリスは可愛らしいものが大好きで、手先の器用さを生かして細々としたものを作るのが得意である。


 そんなこんなで、二人はグラン・マージの屋敷へとやって来た。イリスは何度も遊びに来ているような感じに見受けられたが、ミュゲはまだグラウ・マージの身分であり、こうしてエスタシオンを人の姿で歩くのすらやっと、という状況なので当然ここにやって来るのは初めてだった。いつもは歳の割に冷静な彼だが、やはり最高位魔法使いに会うのは緊張するものだ。
 緊張するミュゲをよそに、イリスが玄関のベルを鳴らすと、中から返事が聞こえ、それから数秒して扉が開かれた。
「あら、イリスさん。いらっしゃいませ」
 扉の向こうから顔をのぞかせたのは、少しふっくらした中年の女性――屋敷のお手伝いさんだ。彼女はイリスの姿を見るやいなや、えらい歓迎振りで屋内へと招き入れてくれた。
 軽快な足取りで廊下を進みながら、お手伝いのおばさんとイリスは、近所の奥様同士のように会話を弾ませていた。内容は全て日常生活の云々で、大した話ではない。
 その状況にミュゲは少なからず驚いていた。
 変わり者で有名なカトル階級の魔法使い達。その中で最も変わり者……というか、掴みどころのない人だとは思っていたが、お手伝いさんの態度や発言からすると、イリスはグラン・マージとはかなり親密な関係にあるように感じられる。今さらながらちょっぴり尊敬の念を抱いた。

 長い廊下を歩いて、一番奥の部屋に案内されたイリスとミュゲ。お手伝いさんはその部屋の扉を開けて、中にいる人物に声をかけた。
「奥様、イリスさんがいらっしゃいましたよ」
 お手伝いさんは言葉の後に身を引き、身振りで中へ入るよう二人に促した。まずイリスが先に足を踏み入れ、ミュゲは遠慮がちにその後に続く。
「こんにちは」
「あらあら、まあまあ、イリスじゃないの。よく来たわね」
 イリスがにっこり笑顔で挨拶をすると、大きなソファに座って読書をしていた老婆が立ち上がり、こちらも笑顔を返してくれた。真っ白なローブの胸元には【グラン・マージ】の証であるエンブレムが輝いている。
 立ち上がった細身の老婆は、イリスに近づき握手を交わした。
「あ、そうだ。お土産があるんですよ」
 そう言ってイリスは背後に立っていたミュゲに声をかけ、用意してきたお土産を手渡すよう促した。指示を受けたミュゲは、緊張の面持ちで進み出て一礼し、持っていた白い箱をグラン・マージに手渡した。
「あらあら、ありがとう。ところで、この子が自慢のお弟子さんかしらね?」
 グラン・マージはとても興味深げにミュゲのことを見ていた。そんな視線を受けた本人は、いっそう緊張感を高めていた。
「そうなんですよー。ミュゲくんっていうんですけど、とっても頭が良くて、気が利いて、可愛くて、私にはもったいないくらい出来た弟子なんです」
 これでは親バカみたいだ……とミュゲは焦った。グラン・マージの前でそんな立派過ぎる紹介をするなんて、一体何を考えているのか。しかもまだグラウの分際で、そんな誇大評価された自分の身にもなって欲しいものだ。
「あらあら、そうなの。あなたが弟子を取ると聞いた時は、本当に大丈夫かしらと心配したけれど、そんな立派なお弟子さんがついているなら安心ね」
 言いながらグラン・マージはソファへと戻り、座りながらイリスたちにも着席を促した。イリスは遠慮なくさっさと座っていたが、ミュゲは一応立場上マズイのでは、と遠慮していたが、イリスに強引に腕を引かれて結局座るはめになった。
 しかし、グラン・マージにまでそんな心配をかけているお師匠様って一体……。それに、立派な弟子がついて安心ね、などと言われる人が、なぜカトル階級なのか疑問だ。
 ミュゲがそんな思いに耽っている間、二人の本当に親しげに会話を交わしていた。
「まあまあ、こんなにたくさんのフレーズ!」
 白い箱のふたを開けたグラン・マージは、赤くて小さな果物がぎっしり詰まっているのを見て歓喜の声を上げた。
「うちのお庭で今朝採れたものなんですよ」
「ありがとう。孫娘の大好物なのよ。きっと大喜びするわ」
「えっ、お孫さんですかっ?」
 途端にイリスはキラキラと目を輝かせ始めた。彼女は「孫=小さい子=可愛い」と勝手に連想したのだろう、とミュゲは思った。可愛いもの好きの彼女ならではの安直な発想だ。
「そろそろ学校から帰って来る頃だと思うんだけれど……」
 言いながらグラン・マージは窓に視線を移した。開かれた窓から光と共に少し強めの風が入り込み、カーテンと窓辺に置かれた植物の葉を揺さぶった。それが気になったらしい。
「閉めましょうか?」
 気を使ってミュゲが申し出ると、グラン・マージが頷いた。ミュゲはてくてくと歩いて窓辺に近づき、窓に手をかけた。と同時に外から勢いよく飛び込んでくるものがいた。

「おばあさま、ただいまー!」
 それは飛び込んできたと同時に、ミュゲに飛びついてきた。
 突然の衝撃に、ミュゲは呆気にとられながらも視線を落とした。彼の灰色ローブに、黒い物体がぶら下がっている。よく見てみると、それは首に薄紫のリボンを巻いた子猫だった。
 子猫は何となく違和感を覚えたのか、ゆっくりと視線を上げる。青紫の瞳は見知らぬ少年の顔を映し出し、彼の薄青の視線とぶつかって一瞬時が止まった。
 そして子猫は一気に困惑し、悲鳴を上げた。
「きゃー、どなたですかーっ?!」
 見知らぬ人物に飛びついたためか、子猫は慌てふためいて逃げ出そうとしていた。が、あっさりと捕らえられてしまった。
 ミュゲは捕らえた子猫を両手で掴み、そのまま振り返った。
「まあまあ、おかえり、ビオレータ」
 少年の手の中の子猫を見たグラン・マージが、その名を呼んだ。どうやらこの子が先ほど話題に上った孫娘らしい。
 猫の姿であるのは、下級魔法使いの証拠。学校に籍を置く者たちは、シュヴァルツ・マージと扱いが同等であるため、校内を除くエスタシオン内部を人の姿で歩くことが出来ず、また服装も黒いローブである。
「うえーん、おばあさま! たすけてー」
 子猫は耳をたらし、泣きべそをかいてジタバタと身もがきつつ、祖母に助けを求めた。何だかさらわれたかのような言いっぷりに、ミュゲが溜め息をひとつ。
「人さらいみたいな言い方は失敬だな。君が逃げようとするから捕まえただけだよ」
 子猫が首をひねって見上げると、そこにはいささか不機嫌そうな顔があった。
「ご、ごめんなさい」
 そう言って子猫はぱったりと大人しくなった。
 謝るくらいなら始めから言わなければいいのに、とミュゲは思った。まあ、仕草とかクルクルと(猫なりに)表情が変わる辺りは、なかなか愛らしいが。
 ふと、ミュゲは気がかりになってソファに座るイリスに目を向けた。案の定、彼女のはこれまでにないくらい、目を輝かせていた。
「なんて可愛いらしいのかしら!」
 乙女チックな声を上げ、イリスは立ち上がってミュゲの元まですっ飛んで来ると、彼の手から子猫を奪い取って胸に抱かえ、たいそう可愛がり始めた。
 ミュゲは溜め息を吐いた。こうなったら止まらない。何が何でも連れて帰りそうだ。先日など、道端に転がっていた何の変哲もない小石が可愛いなどと言って持ち帰ったのだ。ミュゲがどんなに説得しても無駄だった。
 ちなみにその小石は今、「可愛いもの置き場」にちゃっかり居座っている。そこはイリス専用の棚で、様々なところから拾ってきた・集めてきた意味のない(イリスにとっては可愛い)ものたちが飾られているのである。

「お、おばあさま……たすけて……」
 さすがに息苦しくなったのか、子猫は苦しげに言って、微かに震える前足を必死に伸ばしていた。
「まあまあ、とにかく二人とも、こっちへ来て座りなさいな」
 孫娘の助けに応えるかのように、グラン・マージが手招きをし、呼ばれたイリスとミュゲは再びソファに腰掛けた。イリスの膝の上には相変わらず子猫がおり、絶え間なく撫でられ続けている。よほど気に入ったらしい。
「その子が孫娘のビオレータよ。今は学校に行っているけれど、あと少しで卒業なの」
 学校で魔法使いになるための基本を学び、そして卒業後に師を持って修行するのが通例だ。グラン・マージの話によると、ビオレータは春の魔法使い志願で、誰の元で修行させるか迷っているのだという。
 何と言っても、グラン・マージの孫娘。どんなに力あるヴァイスたちでも、そんな大物の大切な孫娘を預かって、立派なヴァイスになるまで面倒をみ切れるかどうか不安になるらしい。卒業までに何とか決めたいものだが、片っ端から断られているという。そういった話を聞くと、ちょっと不憫だ。
「だったら、私に預けてくださいませんか?」
 唐突に名乗りを上げたのは、もちろんイリスだった。彼女は春の魔法使い、しかもカトル・セゾンだ。普通ならば全く何の問題もなく、むしろ立派な師の元で修行できる、と喜ぶべきところだが……。
「お師匠様、そんなに簡単に引き受けていいんですか? ただでさえ、僕一人だって大変そうなのに」
 第一、まともに魔法について語った事などない人だ。師匠としてはまるで不向きなタイプだろう。ミュゲが独学で学べる力を持つ人材だったから良かったものの、普通だったら魔法使いとしては育たないところだ。
 ミュゲがいぶかしげに問いかけたが、イリスはちゃんと考えているのかいないのか分からない笑顔を返してきた。
「あら、ミュゲくんだって可愛い妹が欲しいでしょう?」
「別に、いりませんけど」
 師匠の世話だけでも精一杯なのに、これ以上人が増えたら身がもたない。しかも、多分あの子は周囲に面倒をかけるタイプだ。長年の師匠相手でそういう雰囲気は何となくわかる。
 間髪を入れずにミュゲが突っ込んだが、イリスには全く通用せず、勝手に話は進んでいた。
「ミュゲくんもこう言っている事ですし、どうですか?」
 「いらない」と言ったはずなのに、どうやらイリスの中では「いる」ということになったようだ。ミュゲは溜め息を吐いた。天然もここまでくるとありがた迷惑である。
「そうねえ、それじゃお願いしようかしら」
「わあ、嬉しい! 安心してくださいな。うちにはミュゲくんがいますから」
 どうしてグラウの弟子に頼るんだろうか……とミュゲはがっくり項垂れた。それにグラン・マージも、こんな大切な事を簡単に決めてしまっていいのだろうか……そう思ったものの、当然口に出来るはずもない。
「じゃあビオレータ、卒業したらこのイリスとミュゲがあなたのお師匠様になるんだから、ちゃんとご挨拶なさいな」
 グラン・マージの言葉に違和感を覚えたが、この際なにも聞かなかったことにしようとミュゲは思った。いちいち考えるのも疲れてしまった。
 祖母に促され、イリスの膝に乗っていた子猫が床に降り立ち、あっという間に少女へと姿を変えてみせた。薄紫の髪には濃紺のリボン、青紫の大きな瞳を輝かせて、ビオレータは黒いローブの裾をつまんでお辞儀をした。
「よろしくおねがいします!」
 そのぎこちなくも愛らしい仕草に、イリスが再び乙女チックな声を上げたのは、言うまでもない。






 グラン・マージのお屋敷から戻ったイリスは、自宅の庭で趣味のガーデニングに没頭していた。ミュゲはというと、結局中途半端な状態で出かけてしまったため、終わらなかった屋外の掃き掃除だ。
「ビオレータはとっても可愛かったわね。早く卒業して、明日にでもうちに来てくれないかしら」
「そんなの無理に決まってるでしょう」
 背を向けたまま、せっせとホウキを動かしつつミュゲは素っ気無く答えを返した。 こんな感じの師匠と毎日闘っているのに、あの子がやって来た後のことを考えると夜も眠れなさそうだ。
「可愛い妹ができてよかったね、ミュゲくん」
「……そうですね」
 人の話も聞いていないらしく、イリスは上機嫌で土いじりを続けている。
 何も考えていないような気もするが、それでも彼女はカトル・セゾン。グラン・マージに次いで偉大な魔法使い。きっとビオレータを一人前のヴァイスに育て上げる事だろう。
 天然でとことんマイペースだが、いつでも明るく、春の日差しのように温かい人だからこそ、ミュゲは彼女を慕い、彼女の元でヴァイスを目指そうと思ったのだ。
 ミュゲの顔には自然と笑顔が浮かんでいた。

「ひとつ聞いてもよろしいですか?」
「なあに?」
「グラン・マージとは、どういう関係なんですか?」
 問いかけながらミュゲが振り返ると、花壇の前で座り込んだイリスが笑顔を返してきた。
「私ね、あの方の一番弟子なの」
「えっ?!」
 衝撃の真実に、ミュゲは柄にもなく驚きの声を上げた。
「と言っても、あの方の弟子は私ひとりだったけど」
 つまりは後にも先にも最初で最後の“一番弟子”、という意味だ。
 イリスは賢い子だったが、おっとりした性格に加え、何をするにもマイペースだったため、なんと同期の者たちが次々に師を見つけて門下生となる中、すっかり出遅れて取り残されてしまったらしい。本人は気にしていないようだったが、気の毒に思ったグラン・マージが彼女の面倒を見てくれたのだという。
 当時のグラン・マージは、まだカトル・セゾンだったが、元々弟子を取るつもりはなかったそうだ。さらに、すでにグラン・マージとしての地位を約束されており、その時も例外ではなかった。だから、イリス以外の弟子がおらず、彼女は大変可愛がられ、大切に育てられた。
 とはいえ、グラン・マージの力のおかげでカトル・セゾンになったわけではない。素晴らしい師匠の下で修行したからこそ、そこまで上り詰めるだけの力を備えたのだ。天然系お姉さんだからと言って、後ろ盾だけで階級を上げられるほど、この世界は甘くはない。

 そして数ヶ月後には、ここに一人の少女がやって来る。すべての経緯から、ミュゲは、これはなるべくしてなった結果だと思った。帰り際の、師匠に向けたグラン・マージの言葉をふと思い出す。
 ――昔のあなたにそっくりなのよ、あの子。
 お師匠様とビオレータは、それはそれは気が合うことだろう。が、天然系が二人も揃うとなると、溜め息が絶えない毎日となるに違いない。とりあえず、あの子がやって来る前に、少し体力をつけておこうとミュゲは心に決めた。

「あ、そうそう。ミュゲくんは今月昇級試験を受けてね」
 師匠の唐突な発言に、ミュゲは一瞬硬直し、勢いよく振り返った。
「はっ?!」
「だって、ビオレータが来る前にヴァイスになってもらわなきゃ、私困るもの」
 花壇に花を植えながら、イリスは当たり前のようにさらっと言っていた。
 そんな勝手に……そう思ったが、どうやらさっさと手続きを終えてしまったらしく、抗うだけ無駄だった。どうして毎回弟子に頼るんだろうか、この人は。
「ミュゲくんなら大丈夫よ」
 イリスは変わらず温かい笑顔と優しい眼差しで、項垂れる愛弟子の姿を見つめていた。



 イリスの期待通り、昇級試験にミュゲは見事一発合格し、しかも管理職免許まで同時に取得し、ビオレータがやって来る前に晴れて白いローブの魔法使いとなった。
 そして月日が流れ、エスタシオン端の森にひっそり建つ小さな屋敷に、ビオレータがやって来た。二人のヴァイスに見守られ、ここからビオレータの修行の日々が始まるのだった。




END





キリ番19000を踏んでくださったアオイさまからのリクエスト番外編です。「ビオレータとミュゲの初顔合わせ」ということで、こんな感じになりました。
が、なんだかお師匠さまメインの話になってしまって申し訳ないです(汗)
アオイさま、素敵なリクをありがとうございました!






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