+ エピローグ +




 忘れられた北方の村・ノルテには独自の文化が今なお濃く残り、そのせいか他の町や村との交流がほとんどない。ゆえに他方からの来客どころか手紙が届くというのさえ稀な事で、特に珍しがられるものである。
「ハイネ」
 名を呼ぶ母を振り返り、ハイネは首を傾げた。
「あなたに手紙よ」
 珍しいわね、と呟く母の手から封書を受取り、ハイネは差出人の名を確認する。そして思わず声を上げた。
「メリーアンからだわ!」
 懐かしい名を口にして、ハイネはすぐに封を切った。
 中には丁寧に折りたたまれた便箋が数枚と、写真が一枚同封されていた。そこに映っているのは、笑顔を浮かべるメリーアンとミルト、そして見知らぬ男性の姿があった。
 あの一件の後、メリーアンは住んでいた屋敷を焼き払い、サージュの遺体と共にエレフ村を去った。ミルトの元で暮らすと言っていたものの、ハイネはあれ以来二人とは会っていないため、その後の詳細はわからなかった。
 全てを失ったあの時、メリーアンは絶望に打ちひしがれて消沈していた。この先の人生を健やかに過ごせるようになるのか不安に思ったものだが……こうして息災の便りを受けて安心した。
「へえ!」
 手紙の内容を読み進めて、ハイネは今度は感嘆の声を上げた。娘の声をいぶかしく思ったのか、母が不思議そうに近づいてくる。
「メリーアン、結婚したんですって!」
 写真に写る男性を指さしながら、ハイネは自分ごとのように喜んだ。しかも、そのうち一緒に会いに来てくれるというのだから喜びも一入だ。

 あまりにも残酷で、あまりにも夢のようだったから。
 かの悪魔を想った心も思い出も消せないし、かつて負った深い傷はすぐには癒えないだろう。もしかしたら、悪夢にうなされる夜が今も続いているかも知れない。
 けれど、きっと大丈夫。誰より愛する人が彼女を悪夢から救い出してくれるはず。

 もう一度、写真の笑顔を見つめて。
 ハイネは再会の日を楽しみに待つことにした。



 END





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