× 第4章 【炎と烙印】 5 ×





 きつく睨んでくる青碧の瞳を見つめながら、イグネアは大いに青ざめていた。何で彼らがここにいる? というか何で居場所がばれたんだろうか。もしやこれは最大級の危機ではなかろうか。間違いなく面倒な展開になりそうだ。
 そんなイグネアの思いを知ってか知らずか、冷えた美貌の魔人は最高潮に苛立っていた。額には怒りの証がくっきりと浮かび、口元は明らかに引きつっている。何だその猫を踏み潰したような「げっ」という反応は。俺は珍獣か。
「半年も探してようやく発見した挙句に言われた台詞がそれか……!」
 イグネアは内心でひいっ! と悲鳴を上げた。爆発しそうな怒りを今一歩というところで抑えているヒュドールは、久々にものすごく恐ろしい。今すぐに逃げ出したい衝動に駆られ、無意識に一歩踏み出していたが、すぐさま横を塞がれてしまった。
「残念だけど、もう逃がさないよ」
 腕を掴まれ、はっとして顔を上げてみれば、そこにはリヒトの美麗な笑顔があった。
「君には、それこそ嫌って言うほど色々答えてもらわなきゃならないからね。覚悟は出来てる?」
 普通に見れば爽やかな笑顔であるが、隙がなく、何処となく怒っているようにも感じられる。その証拠に黄金の瞳は少しも笑っちゃいないのだ。
 ――どど、どうしよう!
 この際、こいつらが何故ここにいるのかはどうでもいい。だが、このままでは間違いなく色々と質問攻めに合ってしまうだろう。そうなったら一人では対処できない。事情を知っているヒュドールはともかく、リヒトをも納得させられる言い訳が出来そうにない。とにかく今は何とかして逃げなければ。そしてリーフに助けを求めなければ。
 おろおろと困り抜いた末、イグネアは意を決して顔を上げ……
「あーっ、またもや鳥がっ!」
 壮絶な(でも嘘の)表情で遠い空を指差し声高に叫ぶと、美形共は揃って背後を振り向いた。その隙をついてイグネアは腕を掴んでいたリヒトの手を振り払い、一目散に逃げ去ったのだ。その素早さといえば、びっくりして逃げ惑う小動物さながらである。
「あっ、逃げた」
「小娘め……性懲りもなく!」
 イグネアを追いかけて走り出し、ヒュドールは麗しい顔に似つかわしくない舌打ちをした。なんだこのかつて体験したような展開は。
「なんか、ちょっと懐かしいね。で、どうするの? また足止めする?」
「当たり前だ!」
 言いながらヒュドールは二本の指で宙に印を切った。

来たれ、氷の剣(ライ・ダス・スパーダ)!」

 青碧の瞳がぎらりと妖しい光を放つと、周囲の温度を急激に下げ、イグネアの足元から複数の氷の剣が突き出して交差し、行く手を阻んだ。明らかな脅しであるため、怪我をしないようにとの配慮は一応しているが、あの鈍臭い小娘のことだ、つまづいて足をもつれさせ、あまつさえ転倒するかも知れない……と考えていたのだが。
「ひいっ!」
 などと叫びつつ、あろうことかイグネアはひらりとそれらを飛び越えて行ってしまったのだ。
 忘れていたが、イグネアは山奥で暮らしていたのだ。足腰は丈夫だし、しかも逃げる際は嘘かと思うほど俊敏であったりする。
「くそっ、小賢しい真似を!」
「へえ、意外に身軽だね。さすがは山育ち」
 冷やかしの口笛なんか吹きつつリヒトが呑気に言ったが、ヒュドールは苛立っていた。何だろうか、この屈辱感は。
 一方イグネアは、内心で大いに悲鳴を上げて走っていた。とにかく屋敷まで行けばリーフも帰って来るだろうし、人嫌いなオンブルは他人を家に入れないし、きっとどうにかなる。もうとにかく捕まったらお終いだ。
 そんな緊迫の状況の中でも買ったばかりの塩だけは手放さず、イグネアは必死に走った。そうしてようやく屋敷まで帰りつき、ものすごい速度で扉に飛びつき、一気に開いて勢いよく飛び込み、がっちりと閉め、ふうと一息吐いた……のも束の間、どういうわけか身動きが取れなくて困惑した。なんと、扉に服の裾がはさまってしまっているではないか。
「なんという不運!」
 これでは身動きが取れない。かと言って今開ければ間違いなく美形共の餌食だ。しかしこのままでは何もできないし、夕食の支度をしなきゃならないし、どうにもならない。
 困った……と思うものの、いつまでもこうしちゃいられない。ほんの一瞬、わずかに開けてさっとやってしまえばきっと気づかれないだろう。
 抱えていた塩を床に置くと、イグネアは意を決した。取っ手に手をかけ、その一瞬に命をかけるべく集中力を高め、深呼吸を繰り返す。そうして震える手に力を込め、音を立てぬように密かに、息を止めてゆっくり取っ手を動かし――気持ちばかりの隙間を作ったが最後、思い切り外側から扉を引かれ、いつかのようにすかさず足どころか手まで突っ込まれ、扉はあえなく全開させられた。
 乱暴に開け放たれた扉の向こうには、惜しげもなく苛立ちを露わにする二人の美青年の姿。身を縮こまらせて怯むイグネアを、黄金と青碧の視線が容赦なく射抜く。
「イグネア=カルブンクルス、並びにリーフ=エムロード。スペリオル王の勅命の下、お前達を強制連行する」
 王直筆の署名入り書状を見せつけ、怒れる魔術師が氷点下の声色で告げた。





 一方その頃、カディールを追っていたリーフはというと。
 道端で息絶え、ぐったりと横たわっている魔鳥を前に立ち尽くしていた。
「やっつけるなんてすごいな。誰だろうか」
 一緒に来た自警団の面々はカディールを囲み、時折突いたりして興味深々で眺めている。追い払うことしかできない彼らにしてみれば、倒してしまうなど尊敬に値するのだ。しかもその可能性があるリーフが違うとなれば、騒ぎになってもおかしくはない。やいやいと騒ぎ出し、ついには「謎の救世主登場か」などという妄想にまで走り始めたほど。
 その喧騒は完璧無視で、リーフは屈み込んでカディールの屍をじっくり観察していた。薙がれた銀の尾と、腹部には貫かれた痕が二箇所。うち一方は剣、もう一方は……傷口に残った余韻で魔術だと知れた。どちらにしろ、この一撃で死に至らしめたのだから、なかなかの手練と見受けられる。
 このリトスには、余所者が訪ねてくること自体珍しい。さほど特徴もない辺ぴな町だ、そうそう用事のある者など……このような戦闘力を持つ者など現れるはずもない。
 まさかとは思うが……そう考えた時。
「エムロード」
 名を呼ばれ、リーフはゆっくりと立ち上がって声の主を振り返った。少し離れた物陰に、人目を忍ぶようにしてモルが立っていた。
 リーフと契約中であるモルの仕事は、イグネアの身辺警護である。持ち得る隠密性を活かして本人には全く知られずにいるわけだが、何か異変があればすぐさま報告に来るようにと命じてある。
 リトスにはカディール以外に危険は少ない。ゆえに問題が起こる事自体がまれだ。……つまり、予感は的中したと思っていいだろう。
「……カルブンクルスの元に、若い男が二人訪ねて来た」
 モルの報告に、リーフの眉がぴくりと動いた。
「それはもしや、えらく小奇麗な小僧共か?」
 リーフの問いに、モルは無言で頷いた。
 リーフの表情が険しくなった。いずれ奴らがやって来る事を想定しなかったわけではない。けれど……
「思っていたよりも早かったな」
 愛らしい顔に似つかわしくない舌打ちをし、リーフはすぐに屋敷へ向けて歩き出した。





 いつもは静かなベルンシュタイン邸だが、今日は静かを通り越して冷え切っていた。普段は人気のない無駄に豪華な居間のソファには、場違いなほどきらめく美青年が二人。それぞれ遠慮もなく堂々と深く腰掛け、物言いた気な表情でじっとこちらを見ている。
 とりあえず落ち着こう、ということで茶を淹れてきたイグネアはうっと怯んだ。いつも不機嫌なヒュドールはともかくとして、温和なリヒトまでがどうやら怒っているらしい。ちょっとどうなのか、この険悪な空気は。
「ど、どうぞ……」
 そっとカップを差し出すが、二人の視線は茶ではなく完全にイグネアに向けられている。居心地が悪くて逃げ出したい。というか、この後に何を聞かれるのか……まあ大方の予想はつくが、果たしてリーフが帰って来るまで一人で凌ぎきれるだろうか。そのうえ他人(しかも余所者)を勝手に屋敷に入れたとなると、今度はオンブルの小言も嫌というほど降って来そうである。知られる前に彼らを何とかしなければ。
「そろそろ話をさせてもらうけど」
 ようやく口を開いたのはリヒトだ。声が重たいのは気のせいではない。
「さっきヒュドールが言った通り、俺達は陛下の命を受けて君達を連れ戻しに来た。一度はスペリオルに属する魔術師となったわけだから、そういう扱いを受けることは理解出来るよね?」
 テーブルの上には、先程ヒュドールに見せられたチョビヒゲ直筆の署名が入った書状がある。
「はい……」
 ここは素直に頷いておこう、とイグネアは視線を泳がせつつ返事をした。全くチョビヒゲめ、余計なことをしやがって。
「この書状さえあれば、それこそどんな手を使ってでも君達を連行することが出来る。逆らえば、君達は反逆者だ」
「ええええっ!」
 それはちょっとどうかと思うが……とイグネアはさっと青ざめた。自分はともかくとして、あの無駄に自尊心の高いリーフが、そんな事を納得するわけがない。しかも素直に従うはずもない。
 なんと返していいかわからずにおろおろしていると、リヒトではなくヒュドールが盛大な溜め息を吐いた。
「別に、手荒な真似をするつもりはない。ただ素直に付いてくればいいだけの話だ」
 まああのクソガキがいる限り、そう簡単に事が進むとも思っていないがな、とヒュドールは内心で呟いた。
「し、しかし……こちらにも、その、事情というか、都合がありまして……」
「そんなものがあるなら、さっさとはっきり、全て吐け」
「うっ」
 ぎろりと青碧の瞳に睨まれ、イグネアは大いに怯んだ。だいたい、全部言えないからこうして困っているのではないか。ヒュドールは事情を知っているのだから、もう少しこう何というか、気を使ってくれてもいいのではないだろうか。
 またしてもおろおろと口ごもっていると、今度は二人揃って溜め息を吐いた。
「で? あのクソガキは何処にいる」
 出された茶を口に運びながら、ヒュドールが淡々と問いを投げてきた。隣のリヒトも同じようにして茶に手を伸ばしたのだが、イグネアはなぜかヒュドールにだけ違和感を抱いた。それが何なのかはっきりと言えないのだが、不自然な感じがした。
 そんな風にぼんやりと考えていたが。
「おい、聞いているのか?!」
「きき、聞いてますよ! リーフはですね、普段は自警団の方へ行っているのですが、たぶん、もうすぐ帰って来ると思いますよ、はいはい」
 などとおばちゃん風な口調でずれた眼鏡を正しつつ、イグネアは大焦りで答えた。しかし、聞かれた事にきちんと答えたにも関わらず、ヒュドールはものすごく渋い表情をした。そのうえリヒトもだ。
 大きな一軒屋に、仕事に出る“夫”……まるで新婚みたいではないか。
 だが当然、イグネアには二人がそんな顔をする意味がわかっておらず、またしても何か余計なことを言っただろうかと怯んでいた。
「……で、この家は君達の新居なわけ?」
 半ば呆れたような声と表情でリヒトが室内を見回す。辺境の町にしては内装は豪華だし、無意味に金持ちっぽい。
「い、いえ……ここはリトスの町長さんの家です。私たちはただの居候ですよ」
「ただの居候が、なんでそんな格好なんだ」
 ヒュドールが言っているのは、どうやらこの白いフリルのエプロンのことらしい。
「それはまあ……ただでは世の中生きていけないというか、世間の厳しさというか……」
「要するに、働かされているってわけだね」
「ま、まあそんな感じです、はい」
 俯き加減で眼鏡を正すイグネアを見て、リヒトは溜め息を吐いた。あのまま王宮にいれば、こんな不憫な生活などさせなかったのに。黄金の瞳がちらとイグネアの手を見遣れば、そこには相変わらず呑気に輝いているミールスがある。……やはりこれは、すぐにでも連れて帰るべきだ。などと彼は勝手に(相変わらずの)勘違いを発動していた。
 それはさて置き。
「とにかく、そんな下らない話はどうでもいい!」
 さすがに苛立ちが限界に来たのか、いきなりヒュドールが声を荒げた。当然、イグネアはびくりと身体を震わせた。
「アイツが残した手紙には、アンタが病気で今すぐ治療しないと危険だと書いてあったが、どうせそれも嘘なんだろう?」
「は、はい?」
 というか、イグネアはそんな手紙が存在すること自体、知らなかったりするのだが。耳の遠い老人のごとくもう一度聞き返すと、ヒュドールはあからさまにイラッとした。
「今すぐ、勝手に王宮を出た理由を言え!」
「ううっ……」
 どうしよう、何と答えようか。もうこうなったからには、彼らは真実を聞かない限り引き下がらないだろう。けれど、上手く言葉が出てこない。ああもう、リーフは何をしているのか。さっさと帰って来い! と汗をかきまくりながら内心で激しく愚痴っていると……
「帰って来たら鍵を閉めろと、あれほど言ってあるのに……」
 ブツブツと文句を言いつつ居間に入ってきたのは、ボサボサ頭の男。長身にも関わらず猫背で、眼鏡の奥の瞳は暗い。屋内にいるのに丈長コートを着ているせいで、風貌は暗いを通り越して“重い”の域である。限りなく怪しい、の一言だ。
 屋敷の主である“やや変人”オンブルは、重く陰鬱な溜め息を吐き、言い付けを守らないメイドの小娘を一瞥しようとしたのだが……見慣れぬ男達の姿を発見し、大いに怯んでいた。
「あっ……!」
 これはまたしてもまずい展開になった……と内心で呟きつつ、イグネアは非常に罰が悪そうな顔をして俯いた。いつもは地下にこもっているくせに、なんでこういう時に限ってウロウロしているのだろうか、この人は。
 リヒトとヒュドールは同時にオンブルに振り返り、琥珀の瞳とばっちり視線が合うと、そこにいるのが若い……とは言えないが見知らぬ男だと知れると、ものすごく不愉快気な顔をした。
 二人の他人に機嫌悪そうな視線を向けられ、オンブルは若干逃げ腰で後退りしつつ、イグネアを責め始めた。
「ななな、なぜ私の家に他人がいるんだっ?! 誰だ彼らは!」
「ええと、まあ、知人なんですが……」
「勝手に他人を家に入れるなと、いつも言っているだろう! しかもどう見ても余所者じゃないか!」
「そ、それがですね、不慮の事故というか、仕方がなかったと言いますか……」
「君はなぜいつも私の布いた法を犯そうとするのだ! 扉の鍵はかけ忘れるし、おやつの時間は遅れるし、食事のメニューは毎回同じだし……」
 と、半ばどうでもいい普段の鬱憤を爆発させていると、イラッとしたらしいヒュドールが立ち上がった。俺は構わないが、他人にアイツを責められると無性に腹が立つ。
「アンタこそ誰だ?」
 ブツブツと小言を繰り返していたオンブルは、割り込んできた声にはっとして声の主に視線を向けた。麗しい顔に似つかわしくない冷えた空気をまとう青年は、苛立ちを浮かべる青碧の瞳に並々ならぬ魔力を湛えている。間違いなく魔術師だ。
 と、そんな事はどうでもよく、オンブルにしてみれば彼らが何者であろうと関わり合いたくない他人なわけで。
「ここは私の家だ。他人はさっさと出て行きたまえ」
「ほう、するとアンタがコイツをこき使っている町長とやらか」
 さすがのオンブルも、ヒュドールの毒舌にはムッとしたらしい。こちらも変人ゆえか口は達者な方なので、怯まずに果敢に挑んでいった。
「こき使っているとは失敬だな。居候させる代わりに働くのは当然のことではないのか? 善意でやってやっているというのに、そんな風に言われるのはひどく心外だ。だいたい、こっちは散々脅されて困っているんだ。いくら研究の材料になるからとプレシウの……」
「あーーっ!!」
 貴様は一体何を口走る気なんだ! と大いに焦ったイグネアは大声を張り上げてオンブルの発言を阻止した。ぴゅーっと吹っ飛んできて慌ててオンブルにしがみつく。本当は口を塞ぎたいところだが、身長差があるゆえに虚しくもそれは叶わない。
「すみません、ごめんなさい。私が悪うございました。今後は気をつけますので、どうかここは一つ穏便に」
「な、なんだいきなり!」
 地味とはいえいきなり若い娘にしがみつかれたものだから、さすがにオンブルもちょっぴり困惑したらしい。
「いえいえ、何も仰りますな。全て私が背負い込んだ問題ですから、彼らとはきちんと話をいたします。ので、ほんの少しばかり我慢していただけませんでしょうか」
 せめてリーフが帰って来るまで……とこっそり付け加えると、その名に恐れを成したオンブルは、それまでの饒舌が嘘のように押し黙った。本人も言っているように、普段散々脅されているせいかリーフには完全に頭が上がらないのだ。三十四の男にしては情けない現状である。
「彼らは、私とリーフに用があって来たのです。リーフが帰ってこないと、正直話にならないというか……」
「だからと言って、なぜ勝手に家に入れたんだ! この家の主は私だぞ!」
 と、美形共には聞こえないようにコソコソと話を進めていると……
「何をコソコソしている!」
「ひいいっ!」
 背後から怒声を浴びせられ、二人揃って身を縮こまらせた。
 ヒュドールの機嫌は最高潮に悪かった。ただでさえイグネアには奇妙な反応をされ、ようやく探し当てたと思えば見知らぬ男の家に住んでいるし、こき使われているし。それだけでも十分苛立ったというのに、終いには何故そんなに低姿勢になっているのだ。全く腹立たしい。
 ……ますます、町中で聞いた“噂”が本当みたいで気分が悪い。それはリヒトも同様に抱いていた心境だった。
 居間の空気は最高潮に険悪だった。一体この時間がいつまで続くのだろうか。オンブルに至っては、他人が家にいるのは嫌なことだが、こんな面倒な事になるならば地下にこもっていれば良かった……などと後悔する始末である。
 真紅と琥珀、青碧と黄金。四つの視線が絡み(睨み)合い、重苦しい沈黙が流れていた。

「ただいまー。あー今日も疲れたなあ……って、あれ?」
 呑気な声と共に、新たな存在が居間に踏み入ってきた。まさに図ったかのごとくナイスなタイミングで戻って来たのは、猫をかぶった愛らしい少年。深緑の瞳が居間を一巡りし、そこに居るはずのない姿を二つ見つけると、(嘘の)驚きで大きく見開かれた。
「あれえ、お久しぶりだね」
 挑発的な笑顔と小賢しい一言に、ヒュドールは顔を引きつらせた。




←BACK / ↑TOP / NEXT→


Copyright(C)2007− Coo Minaduki All Rights Reserved.